研究活動
Science is nothing but trained and organized common sense, differing from the latter only as a veteran may differ from a raw recruit; and its methods differ from those of common sense only as far as the guardsman's cut and thrust differ from the manner in which a savage wields his club.

T. H. Huxley ( aka "Darwin's Bulldog")

リモートセンシングとは

 観測対象物に直接触れることなく、遠隔から対象物の物理的性質を計測する技術を「リモートセンシング(Remote Sensing)」と呼んでいます。リモートセンシングの始まりは、最初に創造された「生物」が生き残るために、離れているものを識別しようとした時代にさかのぼります。人間の目は、光学的には高精度のカメラに劣りますが、頭脳と連携することにより、遠くにある物体によって反射された光や、物体自身から発せられた光を検知し、対象物の距離や位置、物理的性質や特徴などを明確に識別することができる、すばらしいセンサ(検知器)となっています。リモートセンシングでは、この「目」にあたるものがカメラやレーダなどのセンサで、「頭脳」に相当する役目を担うのがセンサで収集されたデータをコンピュータ処理し、解析・評価する技術です。
 現代のリモートセンシングの始まりは、人工的な装置であるカメラを利用した写真技術が発明された時です。その後、電磁波(EM wave: Electro-Magnetic wave)の可視光と赤外線バンドを使った写真技術は、並外れた高度のレベルに発展しました。現在、航空機やLANDSAT、Metosat、SPOTといった衛星に搭載されている高分解能カメラは、地球観測には必要不可欠な道具となっています。LANDSAT等のセンサの空間分解能幅は10m前後あるいはそれ以上ですが、近年打ち上げられた IKONOSやQuikBirdなどの空間分解能幅は1m以下となっています。光学系のセンサは、観測対象物によって反射された太陽光エネルギーや、対象物自身が発する熱エネルギーを検知しますが、このような「受動型」センサの明らかな弱点は、霧、雨のある時や夜間時には十分な活用ができないことです。
 レーダは、アンテナ自身から放射されたマイクロ波を観測対象物に照射し、対象物によって反射、散乱された電磁波エネルギーをアンテナで感知する「能動型」センサです。従って、レーダを使うことにより、昼夜を問わず観測することができ、光学系バンドと比べて1cmから1mにわたる非常に長い波長のマイクロ波を利用しているので、雲や霧、そしてある程度の雨を貫通し、ほとんど全天候での運用が可能となります。貫通力の大きいマイクロ波センサは、光学系センサでは得られない植生や土壌などの内部の情報も含んでいるという特徴を持っていますが、同時にデータの解析がより困難になってくるという欠点をともなっています。現在、このような問題解決に向けて、マイクロ波データの持っている膨大な情報を、より効果的に利用しようという研究が世界各国で活発に行われています。地球環境の変動とそのメカニズムを理解し、適切な対処をするためには、リモートセンシングは必要不可欠な方法となっているのです。
 マイクロ波センサの「花形」とも言われる「合成開口レーダ(SAR: Synthetic Aperture Radar)」は、地上約700〜800km上空の衛星から1〜10m前後の物体を識別できる空間分解能を持ち、航空機搭載SARでは1m以下という空間分解能幅を持っています。これらのデータは、砂漠、熱帯雨林、極地そして海洋といった、地上からでは測定が困難な地域の観測に特に威力を発揮します。さらに、電磁波の干渉現象を利用して、地表高度の計測、地震や火山活動による地殻変動、そして氷河の流れや海流の流速などが測定できます。近年、送受信の偏波状態が散乱プロセスに依存することから、偏波データに内包されている情報を活用すべくポラリメトリックSARの研究が世界的な注目を集めています。しかしながら、センサによって収集されたデータと、観測対象の物理的特性との定量的関係を求める方法には、解明しなければならない多くの問題があります。

研究室の取り扱う分野

 研究室では、衛星、航空機およびシャトル搭載のSARのデータを使って、地球科学と環境問題に貢献する研究を行っています。地球環境を観測し、解析、評価するのに、どのようなセンサをどのように使ったら最適な計測手法が得られるのか、データをより定量的に高精度に解析するにはどうしたらいいか、新しい解析手法を開発できないだろうか、といった手法論の基礎的な研究を行っています。
 センサで収集されるデータは、電磁波と観測対象物の相互作用の結果として得られるわけですから、この相互作用の過程を理解しないかぎり、収集・処理された情報から観測対象物の物理的性質を計測することはできません。そのために、電磁波の散乱理論の開発、水面や土壌などの対象物とマイクロ波の関係を調べる基礎実験も並行して行っています。
 研究室では、「なぜ」という疑問を常に問いつつ、「原理」追求の「基礎的」な研究を「定量的」に「検証」しながら行うことをモットーとしています。

研究課題

合成開口レーダ(SAR)による海洋現象の解明

  1. SARによる小型船舶検出アルゴリズムと AIS (Automatic Identification System) の統合システムの開発
  2. SARによる海洋波浪、内部波、海流、海底構造の画像解析の基礎理論の開発と応用
  3. スプリット・ルック処理したSARデータと非ガウス統計を使ったターゲットの自動検出アルゴリズムの開発
  4. スプリット・ルック処理したSARデータによる波浪方向スペクトルの測定
  5. 船舶運動がSAR画像に与える影響と動体検出(MTI)アルゴリズムの開発
  6. 干渉SAR(InSAR)とSAR複素画像を使った海流の流速計測
  7. SAR画像に生じる波浪画像と Velocity Bunching 及び RCS の相互関係の理論的解釈
  8. SARの砕波画像に見られるアジマス・ストリークの統計解析
  9. 砕波量とK-分布の定量的関係に関する理論研究と航空機搭載SARブリストル湾における砕波データ解析
  10. 実開口レーダのマルチパスを利用した海洋上のターゲット抽出理論とシミュレーション

電磁波の散乱問題
  1. 粗面によるマイクロ波散乱理論(Kirchhoff, Composite-Surface Models, etc.)の開発
  2. 海面波波長に依存するマイクロ波 RCS の確率密度関数の基礎理論と応用
  3. X-バンドマイクロ波の散乱と土壌透過率の測定及び水含有量への依存性の計測実験 

SAR/InSAR の陸域への応用
  1. 衛星(Radarsat)と航空機搭載(AIRSAR、Pi-SAR)SAR、InSAR 及び Polarimetric SARデータからの水稲パラメータの計測
  2. 非ガウス統計に従う多周波数・多偏波シャトルデータ(SIR-C/X-SAR)を使ったバイオマス等の森林パラメータ計測理論の開発と解析
  3. L-band JERS-1 SARによるボルネオ熱帯林の観測と解析
  4. InSARによる変化抽出とインタフェログラム位相の統計解析
  5. 非ガウス統計を持つSAR画像の相互・自己相関関数の散乱体への依存性

統計解析
  1. 高分解能ポラリメトリック Pi-SAR のK-分布振幅データからの苫小牧森林バイオマス計測
  2. 非線形スペックルフィルターの解析的解の導出と応用への最適化
  3. スペックル雑音の軽減に関する理論と応用
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